今回の読者投稿は、海水浴の途中で経験した怖いお話です。 海の中で足を掴む、そんな悪ふざけも1度位したことがあるのでは? でも気をつけてくださいね。 あなたの足を掴んでいるのは、一緒に来た友達で […]
今回の読者投稿は、海水浴の途中で経験した怖いお話です。
海の中で足を掴む、そんな悪ふざけも1度位したことがあるのでは?
でも気をつけてくださいね。
あなたの足を掴んでいるのは、一緒に来た友達ではなく、この世のものではない存在かも、知れませんから。
私の足を掴む手
幼少の頃の話です。
当時、小学校低学年の夏、私は家族旅行で、とある海岸のホテルへと泊まりに行く事になりました。
地元から車で4時間ほどのところにある大きなホテルに着いた私達家族は、部屋に荷物を置くと、そのまま海へと海水浴へ出かけました。
足などが攣って、溺れないように準備運動を済ませて海へ。
幼い妹はまだ泳げない為、私は叔父と一緒に海の中へと入っていきました。
そうしてしばらく遊んでいると、
「少しトイレに行ってくるからここに居てくれ」
と叔父に言われて、私は一人ぼっちになりました。
迷子にはなりたくないので、腰位の浅瀬でじっとしていると、足元に違和感を感じたのです。
…何かが左足に触れている、海藻か?
東京近郊の中では、比較的綺麗な海ですが、海藻がやや多いのと、流石に足元が見える程澄んでいるわけではないので何も見えません。
なんとなく海藻にしては足首の辺りに纏わりついてきて、細く柔らかい感触がしました。
しばらくするとその感触がふと止み、今度は足を指先で突かれるような
『とん、とん』
という感触を覚えました。
不思議に思いましたが、魚が足にぶつかってでも居るのかと、気にしていなかったのです。
その感触も暫くすると止み、辺りには波が体に当たる音と喧噪だけが耳に聞こえてきました。
すると突然、足元から無数の気泡が上がったと思うと、左足をガシッと掴まれたのです。
最初は叔父が帰ってきていて、潜って悪戯しているのかと思いました。
ですが、それが1分…2分と続くに連れて、違うことに気付きます。
幾ら何でも、人間がこんな長い時間、息が続く訳がないのです。
足を掴む力は徐々に強くなり、そのまま私を徐々に沖の方に、足元の砂に引きずり込みながら引っ張っていきます。
「マズい!!」
と子供ながらに考えました。
このままでは、沖に連れ去られてしまう!
このままでは、溺れてしまう…
そうなってたら…そうなったら…
(海の家のラーメンが食べられないじゃないか!)
食いしん坊だった私は、海の家で疲れるまで遊んだ後に食べるラーメンが大好きでした。
あの観光地特有の味といいますか、こう『海の家のラーメン味だよな』という味が昔から、そして今でも好きなのです。
私はこの状況をどうすれば切り抜けられるか、そしてどうすればラーメンにありつけるかを、子供の思考で必死に考えました。
そして考え付いたのです…蹴ればいいじゃない、と。
私は、意を決して掴まれた左足を踏ん張ると、右足を上げて踵で思い切り手首があるであろう部分を蹴りました。
その瞬間、気泡が上がって足を掴んでいたものが離れました。
今だ、と私は両足を揃えて、その場で軽くジャンプすると、思い切り地面を蹴って飛び上がりました。
何か柔らかいものを両足で踏んだ気がしましたが、気にしている余裕はありません。
そのまま腹から海面にダイブすると、迫真の犬掻きで浅瀬へと移動します。
そうして息を切らせながら海から上がると、海岸に私を心配そうに見る叔父の姿が見えました。
私は海を上がるとすぐに叔父の手を引き、足を掴まれたからと母親達の居る場所まで引っ張っていきました。
最初は半信半疑だった叔父も、母親達の元に帰って私の左足首を見ると、顔を青くして私の言葉を信じたのです。
私の左足首には、手に掴まれた様な赤い跡と、爪が食い込んだ後がしっかりと残っていたのです。
…今にして思えば、両足を揃えて飛んだ時に感じた柔らかい感触も不思議です。
あの時は、楕円形の物を踏んだのをしっかり覚えています。
まるで、人の『顔』のような。
それに最初に足に感じた細いものが触れる感触…考えてみれば、あれは水中にたゆたう、長い人の『髪』のようでした。
私の足元には、一体何が居たのでしょうか…
今でも、その正体はわかりません・・・
おまけ
ですがこの時、私は気付いていなかったのです。
私はこの時『呪い』を受けていて、本当の悲劇は、翌日に潜んでいたのだと言う事を。
翌日は海がやや時化ていたため、私達家族は海ではなく、ホテルの屋上にあるプールで遊んでいました。
その時に、私は叔父が平泳ぎで泳いでいたので、後ろからいたずらをしようと近付いて行ったのです…ですが、それが間違いでした。
ズドォ!とでも表現すべき衝撃と共に、小学生の私の腹に深々と突き刺さったのは叔父の『左足』でした。
叔父は、後ろに近付く私に気付かず、思い切り足を伸ばしたのです。
『ウボアッ!』
という鈍い悲鳴と共に、よろよろとよろめきながらプールサイドから何とか上がり、そこで空に向かって大の字で寝転がった私は、こう思いました。
(アイツのせいだ、海で足を掴んだアイツの『呪い』だ)
と…当時もそう思いましたし、もう20年以上前の話ですが私は今でも足を掴んだ『アイツ』の所為だと思っています。
私の不注意などではありません、断じて、ええ。
あ、余談ですが、海の家でラーメンはきちんと食べましたよ。
犬掻きで疲れていたので凄く美味しかったです。